企業法務コラム

2026.09.17

外注が作成したドラフトをAIに読み込ませてもOK?著作権法をクリアしても契約違反は残ります。弁護士が解説

外注が作成したドラフトをAIに読み込ませてもOK?著作権法をクリアしても契約違反は残ります。弁護士が解説

生成AIの業務利用が定着するなかで、こんな場面が日常的に発生しています。

  • 外注先から届いた契約書ドラフトを、リスクの見落としがないかAIにチェックさせる
  • システム開発会社から受け取った仕様書をAIに要約させ、社内共有用の資料をつくる
  • 研修会社が作成したカリキュラム案をAIに読ませ、自社向けにアレンジさせる
  • デザイン会社のワイヤーフレームをAIに投げ、別パターンを出させる

いずれも、業務効率の観点ではありそうな使い方です。

しかしこれらはすべて、他社に著作権のあるデータを外部のサービスに送信しているという点で共通しています。

「AIに読ませて別案出してもらえば早い」
「外注さんからドラフトでもらったデータだけど大丈夫ですかね」
「参考にするだけだから問題ない」

実際のところ、この判断はこの程度のやりとりで済まされています。判断しているのは担当者です。法務でも、経営層でもありません。

一律に禁じられる行為ではありません。ただし、どこまでが許され、どこから問題になるのか。本記事では、著作権法上どこに線が引かれるのかを整理した上で、法律をクリアしていても残るリスクと、発注企業が整備すべき体制を弁護士の視点で解説します。

1. 外注ドラフトには著作権があります。完成品だけではありません。

1. 外注ドラフトには著作権があります。完成品だけではありません。

まず前提として確認しておきたいのが、「ドラフト段階のデータにも著作権が発生する」という点です。

著作権法上、著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもの」であり、完成度は問いません。イラストのラフスケッチ、契約書の初稿、提案書の叩き台など、いずれも作成者の創意工夫が反映された時点で著作物として保護されます。

そしてもう一点、多くの発注企業が誤解しているのが「お金を払えば著作権も移転する」という認識です。これは法律上、誤りです。

著作権の譲渡は、契約書に明示的な譲渡条項がなければ成立しません。対価を支払ったという事実だけでは、著作権は制作者側に残ります。つまり、発注してお金を払って受け取ったドラフトであっても、著作権が自社にあるとは限らないのです。

例えば、対象となるのは、以下のようなものです。

  • 弁護士・コンサルタントが作成した契約書・提案書のドラフト
  • デザイン会社が作成したUI設計書・ワイヤーフレーム
  • システム開発会社が作成した仕様書・設計書
  • 採用支援会社から届いた求人原稿のドラフト
  • OEM先から届いた製品仕様書

これらはいずれも、定型文や一般的な表現にとどまらない限り、制作者に著作権が帰属します。「発注してお金を払ったから自社のもの」という認識は、法律上通りません。

2. AIに読み込ませる行為は「複製」にあたります。

2.AIに読み込ませる行為は「複製」にあたります

生成AIにファイルをアップロードする、テキストを貼り付ける。

この操作は、事業者のシステム上にそのデータの複製が作られることを意味します。複製権は著作者に専属する権利ですから、他人の著作物であれば、この時点で著作権法上の検討対象になります。

ただし、これで直ちに違法と決まるわけではありません。

著作権法30条の4は、情報解析などの目的であれば、著作権者の許諾なく著作物を利用できると定めています。AI開発・AI利用が日本で広く行われている法的な土台がこの規定です。

ここで構造を正確に押さえておく必要があります。原則として違法、例外的に許されるではありません。原則として適法、ただし一定の場合に適法性が崩れる、ということになります。この向きを取り違えると、リスクの所在を見誤ります。

では、どこで崩れるのか。

3. 線が引かれるのは「元の表現を出力させる目的かどうか」

3. 線が引かれるのは「元の表現を出力させる目的かどうか」

30条の4が適用されるのは、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し、又は他人に享受させることを目的としない場合」に限られます。享受目的が併存すれば、適用されません。

問題は、この享受目的の中身です。

文化庁が2024年3月にとりまとめた「AIと著作権に関する考え方について」では、AIへの入力段階で享受目的が認められる例として、既存の著作物の創作的表現の全部または一部を出力させることを目的とする場合が挙げられています。

つまり判断の軸は「中身を業務に活かすかどうか」ではなく、「元の表現そのものを出力させることが目的かどうか」です。ここは実務上、極めて重要な区別です。

外注ドラフトに当てはめると、おおよそ次のように整理できます。

AIへの使い方享受目的の該当性
論点の抜け漏れを指摘させる該当しにくい
内容を要約・整理させる該当しにくい
元の言い回しを活かした別バージョンを出力させる該当しやすい
ほぼそのまま清書・体裁変更させる該当しやすい

「参考にしただけ」という説明は、使い方によっては法的にも成り立ちます。 一律に否定されるものではありません。

ただし、これは裁判例によって確立した基準ではなく、行政の解釈指針です。生成AIをめぐる著作権の裁判例は日本ではまだ蓄積が乏しく、今後の判断で線が動く可能性があります。現時点で「うちのケースは大丈夫」と断定できる領域ではないという前提は持っておくべきです。

4. 著作権法をクリアしても、リスクは残ります

4. 著作権法をクリアしても、リスクは残ります

ここからが本題です。仮に30条の4の適用があり著作権法上は問題がないとしても、外注ドラフトのAI利用には別の法的リスクが残ります。 実務でトラブルになるのは、むしろ下記のような事柄です。

業務委託契約の違反

多くの業務委託契約には、成果物や提供データの取扱いに関する条項が置かれています。目的外使用の禁止、第三者への提供の禁止といった条項です。

生成AIへの入力が「第三者への提供」に当たるかは契約文言次第ですが、外部の事業者のシステムにデータを送信している以上、該当すると解釈される余地は十分にあります。 著作権法上適法であっても、契約違反は契約違反として独立に責任が発生します。

秘密保持義務の違反

NDAを締結している場合はさらに直接的です。受領した情報を外部サービスに入力する行為が秘密保持義務に反しないか、条項の確認が必要です。

近年は「生成AIへの入力を禁止する」条項を明記する契約も増えていますが、古い契約書のままの取引先ほど、条項がなく解釈で争う余地が大きいという状態になっています。

著作者人格権

著作者人格権は譲渡できない権利です。実務では「著作者人格権を行使しない」という不行使特約で対応しますが、外注先との契約にその条項がなければ、AIによる加工が同一性保持権との関係で問題になる余地が残ります。

発注先との信頼関係

法的責任の手前の話として、成果物を無断でAIに入力されたことが判明した場合、取引関係そのものが損なわれます。 制作者側がAI利用に敏感になっている現状では、法的にセーフかどうかとは別次元のダメージが生じ得ます。

5. 発注企業が今すぐ整備すべきこと

5. 発注企業が今すぐ整備すべきこと

業務委託契約へのAI利用条項の追加

外注先から受け取ったデータ・成果物のAI利用を禁止(または条件付きで許容)する条項を、業務委託契約に明記することが第一歩です。同時に、受注者側(外注先)がAIを利用して成果物を制作する場合のルールも整備しておく必要があります。

既存契約についても、成果物・提供データの取扱条項がAI利用を想定した内容になっているか、棚卸しが必要です。契約締結が古い取引先ほど、条項が置かれていない可能性が高くなります。

社内AIポリシーの策定

「外注データをAIに読み込ませてはいけない」というルールは、契約書の整備と並行して社内ポリシーとして明文化する必要があります。担当者レベルの判断で行われてしまうケースが多いからこそ、組織としての方針を明確にしておくことが重要です。

顧問弁護士によるひな形・ポリシーチェック

AI利用をめぐる法律の解釈は現在も発展途上にあります。著作権法の改正動向や裁判例の蓄積を踏まえながら、自社の契約書ひな形やAIポリシーが適切かどうかを定期的に弁護士に確認してもらうことが、リスク管理の基本です。

まとめ

外注先から受け取ったドラフトの生成AI利用は、「一律アウト」でも「参考なら自由」でもありません。

  • ドラフト段階のデータにも著作権は発生する
  • AIへの入力は複製にあたるが、30条の4により原則として適法
  • 線が引かれるのは「元の表現を出力させる目的か」という点
  • 著作権法をクリアしても、契約違反・秘密保持義務違反のリスクは別に残る

生成AIの業務活用が広がる中、発注企業側には「使ってよいか」ではなく「どう使えば問題がないか」を判断できる体制が求められています。

判断を担当者レベルに委ねている限り、この線引きは機能しません。契約条項と社内ポリシーの両輪で整備することが、実務上の解になります。

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