他社に無断貸付をした代表取締役を損害賠償の支払いなく解任した事例
- 2024.12.19
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Case type
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Lowyer
history of the problem 問題の経緯
相談時の 状況
- 業種
- 製造業
- 年商
- 10億
- 相談者
- 取締役
- 解任対象
- 代表取締役
代表取締役が取締役会決議を経るべきであったにもかかわらず、会社の資産を無断で取引先に6億円貸し付けたことが分かり、この代表取締役の解任を求めて弁護士へ相談に来られました。
会社の資産の1%以上に相当する金額を貸し付ける場合には、取締役会の承認を得る必要があります。今回の場合は会社の年商の約6割もの多額の資金を貸し付けており、この手続きを無視して貸し付けを行うことは、会社のガバナンスの基本原則を逸脱する行為です。
会社の財務リスクとして6億円という巨額の資金を無断で貸し付けたことにより、会社の資金繰りや財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。万が一、貸付先が返済不能になれば、会社にとって大きな損失となり、経営に深刻なダメージを与えるリスクがあります。
取締役としては、会社の利益を守る義務(善管注意義務)があります。代表取締役が無断で巨額の貸し付けを行ったことは、他の取締役にとってもその法的責任を問われる可能性があり、会社全体のガバナンスやコンプライアンスに関わる重大な問題と見なされます。
このように、代表取締役の行動が会社全体にとって多大なリスクをもたらす行為であり、その責任が取締役会に及ぶ可能性があるため、取締役はこの貸し付けを問題視したのです。
history of the problem クライアントの争点・希望点
争点
問題の代表取締役を法的に有効に解任できるか、また解任させたい場合に損害賠償を回避することができるか。
希望点
代表取締役を解任したいが、できる限り会社に損害賠償のリスクを負わせたくない。
Consequences of this issue. この問題の結果
弁護士交渉にて解任承諾
解任の手続きを進める中で、取締役が損害賠償請求を行う可能性があることが懸念されました。特に、任期中の解任であるため、解任の正当な理由がない限りは役員報酬に相当する額を損害賠償として請求されるリスクがありました。
最終的には、解任の旨を弁護士から交渉する形で代表取締役にお伝えし解任させました。貸し付けた額の大きさや返済もないことなどから、損害賠償請求もなく、リスクを回避することに成功しました。解任手続きを進める過程で、取締役の法的責任を追及しつつも、裁判による長期化を避けるために、交渉によって問題を円満に解決しました。
history of the problem 弁護士ポイント解説
代表取締役を解任させたいよくあるケース別解説
取締役の解任に関しては、いくつかの法的なポイントや判断基準があります。解任に関する相談では以下の理由1~5に類似した解任の相談を伺います。以下に、理由1から5について、損害賠償リスクと併せて解説します。
理由1: 会社のお金を私的流用している
取締役が会社の資産を私的に流用している場合、これは重大な背任行為と見なされ、解任の正当な理由となることが多いです。会社の利益を損なう行為であり、法的にも解任が容易です。
損害賠償リスク ▶ 損害賠償を求められることなく解任できる可能性が高いです。
理由2: 重病を患っていて全うに仕事ができていない
取締役が健康上の理由で職務を適切に遂行できない場合も、解任の理由になります。会社の経営に支障をきたすため、他の取締役や株主にとっても問題となります。
損害賠償リスク ▶ こちらも正当な理由とされることが多く、損害賠償の支払いを回避できる場合が多いです。
理由3: 雇用した従業員が代表取締役のハラスメントなどによりどんどん辞めてしまう
代表取締役がハラスメントなどを行い、従業員が大量に辞めるような状況は、会社の士気や運営に大きな悪影響を与えるため、解任の理由となります。ただし、パワハラの程度や証拠の有無により、解任の難易度が変わります。
損害賠償リスク ▶ パワハラが明確で、多くの従業員が同じことを証言している場合は解任しやすいですが、証拠が不十分な場合、損害賠償リスクが生じる可能性があります。
理由4: 代表取締役の就任後、売り上げが不振が続いている
代表取締役の就任後、業績が著しく悪化した場合も解任の理由とされることがあります。ただし、業績不振の原因が経済状況など外部要因にある場合、解任が正当とされるかどうかの判断が難しくなります。
損害賠償リスク ▶ 会社の経営環境や業績悪化の原因によっては、解任が難しく、損害賠償リスクが伴うことがあります。このため、慎重に対応する必要があります。
理由5: 取締役会議をせずに会社のお金を取引先に貸し付けた
取締役会の承認なしに会社の資産を貸し付ける行為は、会社法362条第4項に違反する可能性があり、重大な法令違反です。このため、解任の正当な理由とされます。
損害賠償リスク ▶ 貸し付けた金額が大きく、返済がされない場合、損害賠償リスクを避けるための交渉が必要です。しかし、適切な手続きを経ていないため、損害賠償を回避できる可能性が高いです。
代表取締役の解任は株主総会でいつでもできる
代表取締役の解任は株主総会でいつでもできます。一方で、その代わり損害賠償(残存の任期期間の報酬)を支払わなければなりません。
損害賠償を回避する方法
解任理由が法的に正当と認められる場合は、損害賠償を支払う必要はありません。今回の事例では、取締役会の承認なしに6億円を貸し付けたことが解任理由として相当であったため損害賠償の支払いはなく解任となりました。
解任依頼で上記の理由3の代表取締役のようなケースでは、交渉によって代表取締役を解任させるより、平取締役に降格させることを提案し、損害賠償のリスクを回避することに成功した例もあります。
解任は最終手段
よっぽどのことがない限りは会社のダメージが大きいため解任はおすすめしません。
しかしやむを得ず役職解任する場合は、損害賠償のリスクを避けるため以下のような方法もあります。
任期を短く設定する
任期期間を1年といったように短く設定して、解任リスクを最少にする方法もあります。
任期設定しない
理論上、任期期間というものがないため、解任された時の残存任期期間の損害賠償が発生しない。ということになりますが任期を設定しないケースはとても稀です。
取締役解任は経験豊富な弁護士に相談を
今回のケースでは損害賠償のリスクなく解任となりましたが、解任される方は納得いかない場合があるので裁判になる場合が多々ある問題となります。その為、裁判とならないために交渉し、解決金を払って着地点を決めるケースもあります。
このように損害賠償を払わざる得ない場合においても交渉次第ではソフトランディングできる場合もありますので経験豊富な弁護士にご相談ください。
この事件を担当した弁護士
![高瀬 芳明の写真](https://takase-law.tokyo/wp-content/themes/takase/assets/images/case/takase.jpg)
高瀬 芳明代表弁護士
Yoshiaki Takase
![高瀬 芳明の写真](https://takase-law.tokyo/wp-content/themes/takase/assets/images/case/takase.jpg)
経営者目線で白か黒ではなく「許容範囲内でのリスク承知でリターンを取れるような最適な課題解決策」のご提示を心がけています。