開業支援名目で支払った資金を巡り、全額回収を実現した事例
- 2025.08.27
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Case type
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Lowyer
history of the problem 問題の経緯
相談者は商品卸売業の開業を予定しており、コンサル業を営む相手方と「共同で開業する」という前提で事業を開始しました。
開業資金はすべて相談者が100%拠出し、相手方は「営業面や資金調達支援、顧客の開拓」など開業に必要な活動の一部を担当する形となっていました。そして、相談者は、相手方の要求に応じて、月々数十万円を支払っていたのです。
この金銭は、相手方の当面の生活費及び事業活動の経費に充てるために支払われましたが、事業が成功した場合は報酬に充てて返還不要とし、失敗した場合には相談者に返還するという、いわば「モチベーションアップのための預託金」であるという理解でした。
しかし、事業は早期に販路が確保できず、実質的に停止。そこで事業コンサルティングの相手方に預託金の返還を求めたところ「あくまでコンサル料であり、返還義務はない」と主張し、返金を拒否しました。契約書は存在せず、口頭での合意とメールのやり取りのみが残されている状況でした。
Client Issues and Desired Outcomes クライアントの争点・希望点
希望点
出資者である相談者が一方的に損失を被った形となり、預託金として支払った金銭を、事業が成功しなかった以上、約束通り返金してほしい思いから、法的手段による解決を求めて弁護士へ相談するに至りました。
争点
- 相談者と相手方の関係が、共同事業者か、それともコンサルタントとクライアントの関係か
- 相手方に対して支払った金銭が、預託金か、又は有効なコンサルティング料に当たるか
- 書面による契約が存在しない中で、どのようにして返還の合意を立証できるか
- 相談者が支払った資金について、返還義務が認められるかどうか
Consequences of this issue. この問題の結果
判決によって全額返還が認められた
相談者が訴訟を提起し、一審では資金の半額返還を認める判決を獲得しましたが、さらに控訴審で全面的な主張が認められ、全額の返還判決を得ました。
強制執行により資金を実際に回収
控訴審で全額返還の判決が確定したものの、相手方は自主的に支払おうとはせず、資金回収が困難な状況に陥りました。
そこで弁護士法第23条に基づく弁護士会照会を活用し、預金口座の所在を突き止めたうえで、強制執行の手続を実施。粘り強い対応によって、最終的に全額の回収に成功しました。
Attorney’s Commentary on Key Legal Points 弁護士ポイント解説
契約書面がない中での立証戦略
本件では、契約書が一切存在しない状況でしたが、弁護士はメールのやり取りを根拠に、相談者と相手方の関係性が、コンサルティング契約ではなく、共同事業契約であると裁判で主張しました。
主な立証ポイント
- 相手方からのメールには、高圧的な指示や罵倒が多く、とてもコンサルティング契約に基づく業務の遂行とは言いがたい内容でした。
- 売上規模に対して、相手が月額で受け取っていた報酬は過大であり、短期間で資金が枯渇することが予見できたこと。
- 実際の売上は一度の取引のみで赤字に終わっており、明確な成果が上がっていなかったこと。
- 相手方が作成した事業計画が現実性に乏しく、金融機関からの融資も受けられなかったこと。
これらの点を総合的に主張することで、裁判所に対して「コンサルティング契約は存在しなかった」と認めさせ、相手方に対する返金義務の判断を勝ち取ることができました。
強制執行による現実的な資金回収
判決が確定した後も相手方は自主的な支払いを行わなかったため、弁護士は弁護士法第23条に基づく弁護士会照会を用いて、相手の預金口座を特定しました。その後、差押えを行い、粘り強い対応によって最終的に全額の資金回収を実現しました。
契約時に気をつけたいポイント
契約書の未作成は大きなリスク
本件では契約書が一切なく、合意内容の立証にはメールのやり取りを積み上げる必要がありました。明確な書面がないために「共同事業契約またはコンサル契約は成立しているか」という根本的な争点が生じています。
このように、最初から契約書を交わすことが、トラブル回避の基本です。
契約書がない場合でも「言質(げんち)」を文書で取る
口頭のやり取りだけでは後の立証が極めて困難になります。本件ではメールの蓄積があったことで救われましたが、「こういう約束だったよね」という、やりとりをしたメールなど文章で残す習慣が重要です。
報酬や資金計画に無理がないか、事前に見極める
スタートアップでは売上がすぐに上がらないのが通例ですが、本件ではその状況下でも高額の月額報酬が支払われており、早期の資金ショートが予見できるものでした。
金銭の流れが継続可能か、ビジネスモデルとしての実現性も精査することが肝要です。
名目上の契約と実態の乖離がトラブルの原因に
コンサルティング契約が成立していたのか、つまりその名目で報酬を受け取る法的根拠があったのかが最大の争点となりました。
「事業が失敗したら報酬を返す」という合意も、契約書に明記されていれば争点にならなかった可能性が高いです。
契約書の作成には弁護士にご相談ください

ひな形を使った契約書も一つの手段ですが、ビジネスの実態に合っていない内容であることも多く、後にトラブルの火種となることがあります。
弁護士に相談すれば、契約の背景や当事者間の関係性を踏まえて、潜在的なリスクを洗い出し、実情に即した条項を設計することが可能です。結果的に、契約書に起因するトラブルを未然に防げるため、時間的にも金銭的にもコストパフォーマンスに優れた対応といえるでしょう。
スポットでの契約書作成やレビューにも対応していますので、「この契約、ちょっと不安だな…」と感じた段階で、ぜひ一度ご相談ください。
この事件を担当した弁護士
